|
「これ、先生に見てもらおうと思って。」 彼女の自宅はたしか、東京の西の端だし、さらに阿佐ヶ谷からの道のりを思うと何だかこちらの方が申しわけないような気がしてくる。さっそく絵の包みをあけてみると、白っぽい人物画があらわれた。 「あれっ? あなたのって、こんな白っぽい絵だったっけ。何かいつもと違うね。」 R子の絵は色彩の深みやバリエーションが豊かで、それが魅力だったはずなのに、いったいどうしたのだろう。しかも下地にメディウムが塗り込められ、不思議なマチエールで表面がデコボコしている。首をかしげる私にR子が答えた。
「予備校の先生がね、これからは"白"がいいって。これをおまえの個性にしろって言ったの。特にG大ではこんなのが好まれるらしいって。」
私はしばし言葉を失ってしまった。とうとう、ここまで来てしまったかと…。美大は数が少ないせいもあって、かねてより大変な高倍率だ。美術系予備校の多くは長年の"傾向と対策"の末、指導の内容がますます、マニアックにマニュアル化されている。大学に入ることだけを目的に、高度なテクニックを身につけさせてくれる。また、多くはそこを通過しなければ合格に近づけないのも現実だ。しかし、個性というのは本来人各々が持ち合わせているもので、他人に言われて作られるものではないはずだ。 少しでも本格的な勉強をやり始めると、志も高くなって予備校に通うことになるのがふつうだが、そこに受験のみが目的のふつうではない指導が待っているとしたら問題だ。 華やかな体育祭も文化祭もあわただしく過ぎてゆき、秋風が吹くころになるといよいよ受験シーズン到来だ。R子も大学だけが最終目標でないことは十分にわかっているはずだ。今度こそ無事合格して欲しいという願いと、本来の良い個性を受験という巨大なプレス機でつぶして欲しくないなという思いが、私の中で複雑にからみ合っている。 |