|
大きな銅版画三点。緻密で女性らしい繊細さと粘り強い取り汲みに大変好感が持てた。 柔らかなモノトーンの中に彼女の持つ幻想的な世界が見事に開花していた。 何より嬉しいのは大学に入ってからも前向きであってくれたことだ。 菊華生だったころ、美術系に進みたい、でも予備校には行きたくないとの事で、 選択肢も少なく、私の責任も重大だった。しかし授業も美術部も一日も休むことなく その誠実さと熱意では他の生徒を圧倒していた。そして最後の特別講座はSさんひとり。 風邪で熱があるにもかかわらず大きなマスクをかけてやってきた日のことは忘れられない。 鼻水をすすり、咳込むSさんと1対1の授業。その後、私も風邪をひいてしまった。 短大入試に必要な持参作品はすべてあの美術室から生まれたものである。 一方、都美術館で開催された東京五美術大学連合卒制展にも出向いた。 いずれも予備校を通過しなければ入りにくい難関校ばかりだ。
各々の大学の個性が分かり、受験生にとっては参考になるだろう。
しかし正直言って、この人は大学の四年間何をしてきたのだろう、
と首を傾げたくなるような作品もあった。迷いや模索する苦しさだけが
伝わってくるものも…。かつての自分と重なり見ていて辛かった。
大学で教える知人によると、受験でエネルギーを使い果たし、
入学してから伸び悩むケースが増えているという。
大学側としてもそれが悩みの種だそうだ。難関を狙って多浪を重ね、
感性の優れた時期を"入る"為にだけ費やすのもどうかと思う。
親の負担もいかばかりか。最優秀賞という栄誉を手に短大を卒業したSさんは、この春さらに専攻科に進む。 こんな選択が出来るのも女の子ならではの特権かもしれない。 帰り際、インクや洗浄液の懐かしい匂いが一杯の工房を案内してくれた。 そして坂道に建つしょう洒な展示ホールを背に見送ってくれたSさん、 すっかり自信に満ちた大人の女性になっていた。 |