美術教師 米谷義子のつぶやき
monthly essays


「 歪んだ親孝行 」 SEPTEMBER 1999

 浪人中の卒業生がある同窓生の近況を伝えてくれた。折角入った大学をあっさりやめて夜間に高収入のアルバイトをしているという。しかも経済的な理由ではないらしい。入りたくても入れない人もいるのにつくづく勿体ないことだと思う。 
 “親不孝”という言葉がよぎると同時にある思い出が蘇った。私が一浪の末運良く美大生になった頃の話。緑萌え立つキャンパスで予備校時代同じクラスだった男子学生に偶然出くわした。「やあ。」「あら、久しぶり。元気?」当時流行っていた白いスリムなコットンパンツが初夏の日差しに眩しかった。姿勢が良くて、妙に明るい笑顔が忘れられない。一、二度講義に出席しているのも見かけ、当然同じ大学に合格したものと思っていた。ところが半年程して、別の美大に通う友人が、やはり校内でその彼を見かけたという。私が見た時と同じく、小わきにテキストやノートらしき物を抱えていたらしい。その友人はさらに彼のことに詳しかった。
 「そうやって時々、タマ美やムサ美に現れるのはね、実はどうもこういう訳らしいの。」
 彼が母親と二人暮らしで、すでに三浪目だったことは知っていたが、その春も受験に失敗してしまい、母親を喜ばせたい一心から合格したと嘘をついていたというのだ。つまり通うふりだけの偽学生だったわけだ。それを聞いて何とも哀しく、やりきれない気持ちになったことを覚えている。次の年からぱったりと見かけなくなったが、改心して母親に真実を打ち明けることはあったのだろうか。        







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