


無理数は,代数的方程式(普通の方程式)の解として表せる比較的素直な無理数(例えばルート2みたいなやつ)と,そうはいかないとんでもない無理数の2通りに分かれます.そのとんでもない無理数のことを超越数といい,もちろん円周率πはそのとんでもない超越数という奴です.代数方程式の解にならないわけですから,有限回の四則演算などの基本的操作で値を求めることができません.つまり,私たち人間が永久に本当の値を手に入れることなどできない数なのです.
しかし,円周率πの背後には自然界の真理と神秘を解き明かす何かが見え隠れしています.私たち人間は,何千年も前のいにしえから,円周率の値を求める努力を続けてきました.たくさんの英知を,それに注ぎ込んできました.
どのくらい前から私たち人間が,円の直径と円周とは比例することに気付いたかはわかりませんが,恐らく地面の上に2本の棒コンパスのように使って円を描いたり,縄を丸太に巻き付けたりしているうちに,いつも直径と円周は同じ割合であることに気付いたのでしょう.円周が直径の3倍よりも,ちょっと長いという事実に初めて気付いたのは,いったい誰なんでしょう。もはやそれは,誰も知ることは出来ませんが,バビロニアやエジプトの時代には既にわかっていたようです.テーベの廃墟で発見されたリンドパピルスの記述が,それを語っています.
ギリシア時代に入ってからはアルキメデスの業績で,円に正多角形を内接させ、また外接させ,その2つの正多角形の周囲の長さを比較することで,円周率を求める技術が花開きました.そしてそれは,二千年近くも円の近似値計算の花形として君臨しました.しかしこの方法では,なかなか計算が進まず,この長き期間の間に人間が手に入れた円周率は,たったの35桁でした.
新しい計算技術は,ニュートン,ライプニッツによる微積分の発見とともに幕開けました.無限級数の登場です.ここからは様々な公式が開発され,それはコンピュータ時代の現在でも結局同じです.どうすれば効率よく円周率を求められるかで,式の見た目は多少違いますが,基本的な考え方はどれも同じ流れを汲んでいます.そして,とうとう人間はコンピュータの手助けで10億桁もの円周率を手に入れました.最も簡単なもので説明すると,
tan(π/4)=1 の逆関数を使って,π/4=arctan1 として,
それを展開することで求めることが出来ます.以前の方法から見ると,計算効率は飛躍的に進歩しましたが,歴史が語るようにたった数百桁の計算に,ほぼ一生を賭けた人もいます.私たち人間は,円周率に果敢に立ち向かっています.
いったい私たち人間は,円周率をどこまで追いかけるのでしょうか.イギリスの数学者バベジのアイデアを発端にコンピュータが生まれ,様々な人の手で発展し現在にいたり,実際の計算は人間の手から離れました.今は効率のよい計算方法の開発と,コンピュータの進化でここまで桁数が伸びてきました.しかし,相手は無限にでたらめに数が続く化け物です.実は,私たちはまだ無限分の1(約ゼロ)の円周率しか手に入れていないのです.これからいったいどんな方向に進んでいくのでしょうか.

